2014年5月10日土曜日

電子回路のコンデンサに関する設計方法

おはようございました。
今度の週末はETの会の後半で“生産活動における省エネ化と倫理”という題目で話すにもかかわらず、まだ資料が完成していません。
そういった危機的状況にもかかわらず、たまにはまともな設計話でもしようかとも思い立ち、書き込む次第です。

連休中は何をしていたんだ?
と、疑問に感じられる方も居るかもしれませんが、
“某御宅の家の補修工事をやっていた”
ということで、時間が有りませんでした。

左官工事やら、水道工事やら、床の張替えやら、釘打やら、適度な仕上がりで良いならば本当に何でもできる人間なので、何でもやらされるというのが悲しい現実であります。


さて、そんな明日には片付けるつもりの話はさておき、今日はコンデンサの設計の話。
先日カーオーディオの電源環境はあまり良くないというお話をいたしましたが、それを補うコンデンサにはどの様な設計が必要なのか?を話そうと思います。

コンデンサの設計にはいくつかのポイントがあり、それを挙げると

  • インピーダンス設計
  • 電力の供給能力設計
  • 最大リップル電流に影響されるのコンデンサ選定
  • 周囲温度と設定する寿命

こういった内容を最低限配慮する必要があります、

では、カーオーディオに付ける前提で設計してゆこうと思います。

※ココで挙げる設計は私が考えている産業向け機器の最低限度の設計指針です。
おそらく民生では過剰スペックですし、医療・航空であれば物足りないでしょう。
もしあなたが、産業機器でのこのスペックを守れない設計をしているのであれば、あなたは設計者では無く、トレーサーと呼ばれる存在であることを忘れては成りません。
これも守れない程度の設計では、顧客に要求されている寿命が保証されません。
努力し、設計ができるように精進することをお薦めします。



先に挙げる注意点として、入力側に適当なコモンモードフィルタを配置し、バッテリーへはあまり逆流しない前提で設計を進めることを前提にします。
自動車内の電源環境は非常によくなく、オルタネータや、ECU、ポンプ類、モータ類、パワステなどで伝導性の電源のノイズが散乱しています。そこにコンデンサをコモンモードチョーク無し(逆流の保護無し)でつなげた場合、リップル電流を大量に喰わされて、短時間で死に至ります。
今回はあくまでもオーディオだけで設計を纏めるわけですから、そこに集中できるように数mH程度のコモンモードチョークコイルを入れ、電源側へのコンデンサの放電を少なくし、また、コンデンサの充電側を少し緩やかに仕立て上げます。
実際の接続条件下において、ノーマルモードで2mH以上を狙えば、100Hzで2Ω程度になりますから、mHオーダーを超える10Aを流せることのできるコモンモードチョークを探すというのがよいでしょう。


さて、はじめはインピーダンスの計算です。
インピーダンスはどのぐらい電圧低下を許すか?でおおよその値を決めます。
デジタル回路ならおおむね5%以下(普通の設計時は4~3%程度にして安全マージンを確保する)。
ただし、デジタル回路は使用する10倍程度の周波数までインピーダンスを下げる必要があります。
アナログ回路なら期待する精度の1/100程度を目標にします。
今回ありえない条件ですが、計算を容易化するために電源は12V、最大10A負荷(120W)を想定し、設計を進めます。

コンデンサのインピーダンスは
1÷(2×円周率×周波数×静電容量)
であらわされます。
今回の目的は可聴領域の問題改善ですから、10Hz~20kHzでのスペックを満たすことです。
コモンモードチョークの影響から100Hzで0.12V未満(12Vの1/100)の低下に抑えたい
その他の周波数帯は周波数が上がる毎にコンデンサがインピーダンスを下げるため、低い側一点で計算しても問題ないでしょう。
例えばコモンモードチョークの特性から100Hzで2.5Ωであれば、
許せる電圧降下÷その時の電流=0.12/10ですから、12mΩ
ターゲットインピーダンスは100Hzで12mΩです。
静電容量=1÷(2×円周率×周波数×インピーダンス)=1/(2*3.14*100*0.012)
ですから
132000μFの容量が必要です。
もし、これがコモンモードチョーク無しであればバッテリーは1kHzぐらいまでは比較的低いインピーダンスであると勝手に想定して、1kHz近辺のインピーダンスを想定すればいいので、
13200μFの容量が必要です。
…結構な数値ですね。
インピーダンスに関しては、これ以上の容量搭載は無駄という事になります。

次に電圧低下の計算です。
信号を出力している際に、コンデンサの電圧低下が許容範囲を超えないことを前提に設計します。
コンデンサに蓄えられるエネルギーは
1/2×静電容量×電圧の2乗
です。
100Hzの期間にコンデンサの放電によって電圧低下が0.12Vを下回らないようにすれば良い
のが今回の目標です。
100W÷100Hz=1/2×静電容量×(12の2乗-(12-0.12)の2乗)
を満足する静電容量を計算します。
静電容量=電力÷周波数×2÷(電圧の2乗-(電圧-電圧低下)の2乗)
計算結果は、697900μF以上と算出されます。
コモンモードチョークを付けていない場合は、その1/10です。

ん~非現実的ですね。
最大電力で動かすつもりなら素直に12V電源から高性能のDC-DCコンバータで安定化した電源を作ったほうが良いといえるでしょう。

上記2点の計算を終えたところで、より大きい容量を採ります。
0.7Fのコンデンサですね。


そして次に最大リップル電流
コンデンサの許容電流(内部発熱の制限など)を超えないように十分満足させるためのおおよその数値を算出します。
この結果を用い、容量を弁えた上で、コンデンサの種類と個数を選定します。

これに関する式は、
電荷=静電容量×電圧
電荷=電流×流れた時間
であらわされます。この式から、
電流=静電容量×その周波数で想定している電圧低下×周波数
を導けますので、
最大リップル電流=0.7F×0.12V×100=8.4A
8.4A流れても十分に問題ないコンデンサを選定する必要があります。
現実的に8.4Aはありませんから、同じ容量、違った容量でも高リップル電流品を複数つなげて、この8.4Aを十分に満足する必要があります。
電流は流れれば流れるほどコンデンサの内部発熱を促し、寿命を短くします。
後術する寿命に対して大きな影響が現れますから、リップル電流の負荷を少なくするようにコンデンサの種類と数量を選定します。
配置や配線、並列接続されたコンデンサの種類によって大きくずれが生じますから、最数的には実測してリップル電流を測定しましょう。

次に寿命です。一般論ですが、
電解コンデンサの寿命は10度下がれば2倍寿命が長くなります。
固体高分子コンデンサは20度で10倍寿命が長くなります。

車内は最大65度と想定し、105度-65度=40度のマージン
2の4乗=16倍の寿命が期待できます。
同様に85度なら4倍です。
1年=8760時間ですから
10年持たせたいのであれば、
105度で87600÷16時間以上の製品、6000時間以上が該当します。
85度なら…該当製品が無いですね…。
現実的にココが守れない場合はリップル電流の食わせすぎです。この温度に関する事項は、あくまでもコンデンサの内部温度である事に注意してください。
最近の日本製コンデンサは綺麗に設計された寿命で壊れます。規定された寿命よりも、短く壊れることは殆どありません。


ということで、結構なコンデンサが必要になってしまいました。
しかしながら、この容量のコンデンサを動かすには結構な突入電流が流れます
リレーとタイマーを駆使して、突入電流を減らす工夫をして、自動車に実装します。
そうすると今度は電源の立ち上がりが遅くなり、機器によっては故障の原因にもなります。
そのため、コンデンサの出口側にも何らかのスイッチ機構が必要になります。
しかし、オーディオ側にリレーを入れるとせっかく下げたインピーダンスが無駄になりますから、FETをうまく使うなり、どこで妥協をするのか?、最大電力ではなく、実使用電力にどれだけ近づけるのか?を模索して検討する必要があります。

コンデンサの設計方法はこのような流れで設計します。
最終的に妥協点を模索するのですが、そこが設計者の勘所というわけです。
マニュアル通りの設計では、このような非現実的な数値(最近は電気二重層コンデンサのおかげで可能になりましたが…)が出てきますので、先代の設計者から可能な限りこの勘所というのを教えて貰うようにしましょう。
それができないのであれば、自ら使用現場に出向き、実際の使用条件から勘所を見つける努力をしなければなりません。

ではでは、今日はココまで。
またの機会に会える事を楽しみにしています。

※カーオーディオのコンデンサチューンに関しては、このいかれた容量選定を緩和できる条件が別にあり、設計にはまだ続きがあります。それは後日。

0 件のコメント:

コメントを投稿

ご意見や要望はこちらへどうぞ。